朝もやの中、放牧へ出かける老農婦(タカコーマにて)
第九話
予定のない旅には、夢のような体験と、ドウシテコウナルノ・・・事件が相半ばする。
タカコーマの4日間も、全くそんな感じだった。 大アマゾン河のボリビア側源流の
一つ、リオ・ルカのほとりにある村のコンサータを訪ねた帰路だった。ラ・パスから
来たのと同じようなトラックは、緑濃いジャングルを抜けると、グングン高度をあげて
行き、さっきまでの風景がウソのような岩肌のムキ出たアンデス特有の絶壁を登り
切ったら、小さな広場に止まった。 そうか、トイレタイムね。人々が荷台から飛び
降りたのを見計らって、トラックは元来た道を下りていった。エッ、ラ・パスへ行く
んでしょ。ウンニャ、今日はここまで。ポッカァン。 旅人は他にいなかった。どうし
てくれるの。さすがに焦った。ノーアイ、トランスポルト。アスタ、ビエルネス。エッー
金曜日まで車は来ない!今日は月曜日だよっー。久しぶりにラ・パスの宿で熱いシャ
ワーを浴び、チョットビールなんかいいネ、ベットも乾いたきれいなシーツだろう
ルンルン。 が、一転にわか、ココハドコ、私はダレ!状態に。無理矢理アキラメ
気分を盛り立て、今夜の宿捜しを始める。旅人が通過する事はあっても泊まる所
ではない。何人かの村人に尋ねた末、やっとの事で一軒の村長(むらおさ)の住む
家を紹介され、離れの一室を借りる事になった。おっ、捨てるトラックあれば、
拾うアンデスのおじさんあり。 その夜は、ココハドコのまま私は、用意されたスープ
とパンの夕飯をしっかり御馳走になった。人心地つくと、チョッピリ明日が楽しみ
にもなっていた。「ヴェナノーチェ、アスタマニャーナ」(おやすみなさい。明日は
明日!)。
朝の散歩の途中、顔見知りの子供達と遊ぶ。(タカコーマ村)
第十話
その村は、歩いても歩いても、霧の中だった。これは別にシャレでも何でもなく、
毎日濃い朝もやが村中をスッポリ包んで、不思議な感覚の朝の散歩になった。
突然、人とすれ違い「ヴェノス・・・」と言葉を交わす間もなく、霧の中へ消えていった。
もやが晴れた跡にも、フシギは続いた。この村は雲海の上にあったのだ。
空飛ぶ村!!タカコーマ。もしこんな所が日本にあったら「雲海を眺めようツアー」
なんかすぐにできて、丘の上ホテルが建ったりしそうだ。でも、一回位参加する価値
が、あるかもね。 それからの三日間、霧と雲海の中をさまよい歩き、まさに夢の
中の日々となった。ある夜は、村長に誘われ、小さな村祭りの集まりへ行った。
「異国の人が来たゾ」という好奇心と、はにかんだ眼が、顔を合わせると下を向く。
集会所の外からも村中の子供達が覗いてニコニコしている。チチャ(トウモロコシ
からつくられる地酒)が振舞われ、男・女に分かれて、ハンカチを振りながら踊り
も始まった。 気がついたら、私も踊るはめに!!単純そうに見えてなかなか
リズムのつかめないステップ。時々ヨタヨタしながら列に着いていく。アチコチで
笑い声が揺れる。そこだけ明るいアンデスの山中、雲の上の村。その夜二本だけ
用意されたビールが、私の為に開けられた。何というホスピタリティだ。
次の日の散歩は、もう知り合いだらけ。特に子供達は「オーラッ」と言うとゾロゾロ
輝いた瞳と共に付いて来る。霧の中で立ち話をする、とおじいちゃんは言った。
ここはの5400メートルあるんじゃ。ヒエーッ。夕べのバタンキュー・・・・爆睡は、
振る舞い酒と踊りの為だけじゃなかったのね。
路上のコーヒーショップ!一杯5円位。(タラブコ村の市)
第十一話
海外に出て、初めて分かった事に、何とも長期に渡って旅を続けている日本人
(外国人も)の多いことか。もちろん20年前の話である。中には旅が12年目、直接
日本に帰るのが怖いので、チョット韓国へ寄って、隣から様子を覗いてからにしよう
、なんていう浦島さん的おじさんにも会った。 特に南米あたりの旅人は、世界中を
周って流れ着いた、強者が多く、初海外旅行中の私を圧倒した。半年日本でタクシ
ードライバーで稼いぎ、半年ペルーのブランカ山群(六千メートル級の山々が連なる
所)に籠もる、という羨ましくも憧れてしまう日々の青年にも会った。 リマの安い
民宿滞在中に、「ありゃ、まだ居たの。」言うまでもなく、半年ぶりの再会です。
シャッキリ日本でアカを落とし、新しい山の装備を背負って再訪して来た彼のまぶ
しかったこと! 中南米の旅も長くなると、当初の「遺跡と博物館を巡る旅」なんて
お題目が、メキシコ、グアテマラあたりで既に薄れ、南米に入った頃には、大体
あやしい方向へずれている奴が多い。「いいとこだったなぁ」と鵜呑みにした情報で
訪れた場所は、昼間っから気だるそうなお姉さま方のいる港町だったり、いいとこの
価値観も、十人十色と変化する。
私が、どこの町でも必ず立ち寄った所に、メルカード(市場)がある。旅を決める
のは「スメール」だと言った人がいたけど、まさに臭いの濃い所である。その土地
のあらゆる面を嗅ぎとれる第一歩が、そこにはある。
サリーリの